惣。

翌朝…。

「おはよう兄ちゃん、穂群」
通常よりは低いトーンで惣がリビングに顔をだす。

「ああ…おはよう…」
顔を上げた穂群は、惣を見て驚く。

「あ…それが姉ちゃんからの?似合うよ」
新聞を読みながら眞絢が言う。

「ねだれないなら…着るしかないからな」
言い残すと、惣は大学へと向かった。

「眞絢…」

「はい?」

「あれは…どうして…」
疑問そうに穂群が問う。

「あー…穂群の言葉が効いたんじゃない?良かったね」
眞絢は、それ以上は言わず新聞に目を落とす。

「あ、ああ…そうか…?」


「ねぇ?穂群も行く?」
その日の午後、相変わらずソファーに寝そべる眞絢が穂群に台本を見せる。
鑑賞教室の会場となるのは惣が通う大学である。

「良いのか?」

「良いよ…早く準備済まておいで」
留守中に録画した番組から目を離さずに眞絢が言う。

「やっぱり見立てに間違いは無かったな」
穂群の黒髪に映える髪飾りを見ながら笑う。

「これも綺麗だ。昔から眞絢のセンスは信頼しているぞ」
二人は惣も通っているはずの並木道を歩く。

「そうだろうね」

「しかし…大学とは賑やかな場所だな…遊びに通っている様な者も居そうだ…」

「まぁ、本当に勉強や研究に打ち込んでる子も居るよ」

「眞絢もそうだった…多肉植物の研究」

「舞台以外の事に打ち込んだのは、あの六年だけだったかもな」
門前でパスを提示して二人は構内へ入る。

「眞絢も惣も…歴史や芸能を専攻すれば協力出来たんだがな…」

「知らない事を研究して解明するのが楽しいんだって!あ…ここかな?」
舞台装置を搬入する為のトラックが見えた。
急遽、代役を勤める事になった眞絢はスタッフに連れられて楽屋へ向かった。

「思ったより広いな…」

「普段は入学式や卒業式と、イベント位にしか使われてないんだよ」
声に振り返ると惣と都織の姿があった。

「穂群!この前はありがとうな!」
構内に居る生徒達と変わらない様な服装ね都織が言う。

「ああ…惣のナビゲーター姿を観たくてな…」

「まだリハーサルだよ…ここまで一人で来たのか?」

「いや、眞絢が一緒だ…さっき楽屋に連れ去られたがな…」
パンフレットは間に合わないが、差し替えで添える為の写真の撮影が行われるらしく、鳴神の衣装を付けなくてはならない。

「眞絢さんが鳴神か…久しぶりだな…色気があって好きだ」
都織が役者の顔を覗かす。

「都織の役は?」

「一応は相手役だな…こんな機会でもないと出来ない役だ」
鑑賞教室は、若手役者達の勉強会の意味合いも含まれている。
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