惣。

「この数日はお稽古の様子を撮影させていただきます」
カメラマンとプロデューサーの二人だけでの惣の密着取材が始まった。

「はい…思ったより少人数で撮影されるんですね」

「ええ、なんせ密着取材ですからね…大人数に囲まれるとなかなか(素)の部分を出して頂けなくて」

「確かに…少し安心しました」
楽屋での打ち合わせを終えた惣が安堵する。
いつもは側を離れない穂群もカメラの後ろから見守っていた。

「あれ?密着取材やんの?」

「おお…都織」

「鏡獅子やるんだって?」

「今回、都織は?」

「ん?今回は俺も舞踊だけ…千鳥」

「汐汲か…都織、呼ばれてるぞ?」
都織に気付いたプロデューサーが手招く。

「映れ…って事ね…偶然風に…」
頷くと、笑顔で惣の取材の輪に加わる。

(やれやれ…今の内に仕事を片すか…)
そっと楽屋を出ると小道具部屋へ向かう。

「これは穂群さん」
いつもと変わらない笑顔の番頭が迎えてくれる。

「遅くなってすまない」

「いえいえ、惣さんの取材でしょ?連絡受けてますよ」
いつもと違う穂群に気付き番頭が付け加える。

「珍しく私服ですね?」
式服を着ていない穂群に目を丸くする。

「ああ、着替える時間も場所も無かったのだ」

「良いのですか?こちらで着替えられても構いませんが…」

「大丈夫だ…己を鼓舞する為に着用しているだけだ」
少し照れた様子で、並べられた小道具や衣装を見渡す。

「今回は汐汲の天秤棒を新調したんですよ…惣さんの使う獅子頭は?」

「衣野家の物を使う…」

「そうですか…では、宜しくお願いしますよ」
番頭は穂群を残して部屋を出て行く。

それと同じくして穂群の黒髪が靡き合わせた両手が、
仄かな光に包まれ始めた。

いつもの様に仕事を終えた穂群が楽屋に戻るとパーソナル・インタビューと
題したアンケートに惣が頭を悩ませていた。

(休みの過ごし方は?)
「睡眠と家事です。叔父と暮らしているので」

(学校では何を?)
「植物細胞の研究と中学、高校の科学教員免許の取得」

(ライバルは?)
「都織…ライバルと言うよりは刺激しあえる仲です。」

「きちんと答えておるな…」

覗き込む穂群に狼狽する惣がアンケートを裏返す。
「当たり前だろ…仕事なんだから」

「そうだったな…撮影の者達は?」

「兄ちゃんや、じいちゃん達の鏡獅子の映像を探しに帰ったよ…俺の舞と比較した映像を撮りたいんだって。午後からの稽古には戻るらしいけど」

「しかし…惣の何が知りたいのだろうな?」
クルーが居ないので堂々と惣の隣に座る穂群が笑う。

「うん、本当に何だろうね」

「特筆すべき癖や裏表も無いがな?」
口角を上げた穂群に顔を覗き込まれた惣も口角を上げて応える。

「それは、穂群だから言えるんだよ」

「惣の事を知りたい者が多いのか…」

「なんだ?余裕そうな顔だな…」

「ああ…その者達が知り得ぬ惣を私は知っておるからな」

思いも寄らない穂群の言葉に目を丸くした惣だったが、嬉しそうに穂群の黒髪を撫でた。
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