惣。

「違う?」

「うん…違う…」
穂群の黒髪に絡んだ花弁を取り払ってやる。

その後、桜志郎は穂群の式神としての仕事を担う事は一度も無かった。
それは、桜志郎が穂群を思い…
また、穂群も桜志郎を思っての事だったのだが。
長い長い歳月の中で穂群には、桜志郎から否定されてしまっただけの偏った記憶になってしまっていた。

「惣…」
珍しく甘えた様子で穂群が手を差し出す。

「ああ…」
二人は指を絡めて桜の下を歩く。

「私は…また…見送らなければならないのかな」

「どうかな…最初は年の離れた姉弟みたいだったのにな」

「ああ…今はまだ…惣が少し年下に見えるか?また…すぐに越されてしまうか?」

「どうかな?まぁ、俺なら父親役になっても、お爺さんでも穂群に似合うだろ?」
少し戯けて惣が言う。

「変わらずに恋うてくれるか?」
嬉しそうに穂群が笑う。

「穂群…」
かなり前に穂群を追い越した背丈と、しっかりとした男性の身体で穂群を抱きしめる。

「惣?」

「まだ…お爺さんになるまで時間があるはずだから…必ず…必ず見つけような」

「そうだな…ありがとう…」
穂群は身体を預ける。

「だから…俺を式神として使え…」

「惣…」

こうして…
不老の身体を持つ陰陽師に使役される、梨園を担う若き役者な式神が誕生した。




< 3 / 96 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop