惣。
「…あのさ…穂群って…兄ちゃんの恋人?それとも…じいちゃんの愛人?」
何時の間にか…
自分を追い抜く程の背丈になった惣が穂群に聞く。
「…それは…今、答えなければならぬ事か?」
重い口調で穂群が右の眉を上げる。
「何処で聞いても一緒だろ?」
入口の横に設けられた長椅子に座る穂群を惣な見下ろす。
衣野の舞踊の家元でもある惣の祖父が亡くなった病室の前である。
疎遠状態だった母親と義父が到着した病室から出て来た惣は笑う。
「どうなんだ?」
「… …」
沈黙を守る穂群にうんざりした様子で続ける。
「まさか…穂群が俺の本当の母親とかもあり得るのか?」
「そんな事があるか…お前の母親は今泣いている彼女だけだ…」
「どうなんだか…」
「まぁ…良い…近い内に嫌でも知る事になる…楽しみにしておけ…」
鼻で笑う惣に、今までで一番冷たい視線を残し、穂群は黒髪を靡かせて去った。
「な…」
何かを言い返そうとした惣は、穂群の醒めた視線に言葉を返す事が出来なかった。
それから数週間が経った。
「やっと…落ち着いたね…」
無事に身内や関係者が参列した葬儀と、贔屓筋の方々を招いた(送る会)が終わった。
「そうだな…まだ暫くは忙しい日が続くだろうがな…」
「うん…で…惣には言うの?」
珍しくソファーに伸びた眞絢が言う。
「ああ…仕方あるまい…」
「親父の愛人か、俺の恋人か…ねぇ…そんな事が言える歳になったんだ」
クスクスと眞絢が笑う。
「…そんな関係なら…こんなに苦しくないのだがな…」
自笑の笑みで穂群が笑ってみせる。
「は?何の話だよ?」
自分が知りたがって居た事の割りに、惣の食い付きはイマイチだった。
今まで見た事が無かった穂群の冷たい笑みを目の当たりにしたからだろうか?
「お前が知りたがって居た事だ…」
「あ、ああ…」
穂群の威圧感は穏やかな笑みの中にも感
じる事が出来た。
「私は…お前が思って居る様なモノでは無い…」
「モノ?ああ…愛人や恋人?」
「そうだ…私は…惣の一族に術を施し共存する(陰陽師)だ…」
「な…」
言葉と一緒に息を飲む。
しかし…惣には思い当たる節もあった。
「まぁ…この御時世…劇場や各々の役者の小道具や衣装の邪気を払うのが生業になっておる…」
(ぞくり)と何かが背中に走るのを惣は感じた。
冷たい穂群の視線から目を逸らす事が出来ない。
「共存?衣野の家に寄生してるのか?」
乾いた唇で惣が問う。
「衣野の者は…私の式神として使役され続ける運命なのだ…」
「は?」
鼻で笑うかの様な態度で続ける。
「じゃあ、何?穂群は兄ちゃんも、じいちゃんも…その前の代から人を物みたいに使ってるの?」
「……遠からず当たっておる…それより遥か以前の者達からな…」
俯いていた惣が顔を上げ、先程より強く穂群を睨む。
その姿に穂群は息を飲む。