惣。

数年後…

惣は第一志望であった大学の合格発表を見に来ていた。

「あ…惣?俺、そろそろ式神引退するから…後は好きにしてくれる?」
突然、それも電話で呆気無く眞絢は告げる。

「な…何で今なんだよ?無事に受かったのを知らせてる最中だぞ?」
悲喜交々の声がする場所から、叫ぶ様に問う。

「いや…一応は惣が落ち着くまで…って決めてたから。うん…良かった…合格おめでとう」
合否を知らせる連絡を眞絢にした所、いきなり告げられてしまった。

「兄ちゃん…待って!すぐ帰るから!!」

「そう?じゃあ、穂群と良く話し合ってね…今から京都だから」
最後まで慌てる事無く眞絢は電話を切った。


「合否はどうであった?」
何も知らない穂群が惣を迎え入れる。

「合否?ああ…合格したよ…あのさ…兄ちゃん、式神引退するらしいよ?今日から!今から!」

「駄目だ!!」
合格の知らせからの喜びの表情から一転、穂群の顔が強張る。

「いや…だから…俺に穂群と話せ…って…??穂群?」
想像とは違う穂群の答えに驚く。

「黙れ…惣!」

「な…なんだよ!穂群が合否を…」
顔面蒼白した穂群が惣に詰め寄った。

「眞絢だ…眞絢は…何処に?」

「え?だから公演で京都…」

「術を…解いていない…」

「術?大袈裟だな…舞踊公演だろ?」
だから、すぐに戻ると眞絢は言っていた。

「場所が問題なのだ…」
数百年振りに御開帳される経典の公開を祝う寺院主催の舞踊公演である。

「寺院での素踊りだろ?…穂群?」
穂群が立ち上がる。

「…二重に術を…」
手を打ち合わせると穂群の黒髪がたなびく。
そして淡い光に包まれた。

「穂群?」
流石の惣もビリビリと何かを感じ、思わず声を発する。

「…良く見ておけ…惣…」
少しだけ笑うと術を施し始めた。

今まで見た事のある穂群の術と言えば、劇場で小道具達に護符を入れたり、
劇場の屋上にある祠を地鎮する穏やかな物ばかりであった。

それらを覆す…
この穂群の姿が本来なのかも知れない様な冷たい表情である。

「…穂群…」
これも穂群の力か?
衣野家のリビングは異空間と化している。

そして、いきなり訪れる落雷の様な衝撃。
もちろん落雷になど当たった事はないが、穂群に直撃した光の余波は惣に落雷を思わせる衝撃を齎した。

(あっ…)
惣の声にならない声はかき消されてしまう。
暫くして、やっと自分が生きている事を感じる事が出来た。
ビリビリと指先が痺れ、鼓動が速くなった身体がそれを証明している。
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