惣。
「ここは…?」
視界には異空間のリビングが揺らぐ。

(戻ったのか?)
割れそうな頭で身体を起こす。

目前にあったのは…

「穂群?!」
朱に染まった穂群の姿であった。

「穂群?穂群!」
数回の呼びかけに薄っすらと瞳を開く。

「惣…無事…か?」

「ああ…」
抱き起こす惣の腕も粘度の高い朱に染まり行く。

「やはり…はね返されてしまったか…」
弱々しく穂群が笑う。

「どうでも良い…動くな!」
起き上がろうとする穂群を止める。

「むしろ…この位で…くたばれるなら早う朽ちたいがな…しかし…我ながら強力な術を施してあるな」

「穂群?」
惣の腕を抜けて立ち上がる。

「まぁ…案ずる事は無い…」
惣を押し、しっかりした脚で立ち上がる。

「…お前…死なないのか?」
その問いが穂群には面白かった様だ。
目を丸くして振り返る。

「死なないのでは無い…死ねないのだ」
にっこりと笑う。

「それに…この術は私が施した物がはね返って来たのだ…自業自得だな…」
もう一度、印を結ぼうとする。

「どう言う事だよ?」
その手を惣が止める。

「眞絢(式神)に下る災難を私が受ける様に術を掛けてある…自分で自分の術中にハマるとはな…」

「じゃあ…兄ちゃん達に危険は?」

「朽ちぬ私で防げるなら安い物だろう…さぁ…離れろ…」

「もう一度…はね返ったらどうなる?」

「そうだな…次はいよいよ…腕の一本位は覚悟しなくてはな…自分の術で…と言うのがなんとも情けない…」

「…他に…方法は無いのか?」

「無くはない…」
苦しそうに深い呼吸をする。

「それは?」

「眞絢を…式神を消す事だ…」

「それで術は解けるのか?兄ちゃんも、この部屋も」

「むしろ…それしか無い」

「…じゃあ…今すぐ消せよ…」
落ち着いた声の惣が告げる。

「何?」
惣に手首を掴まれた穂群が聞き返す。

「兄ちゃんを殺せ…って意味じゃない!
俺を…使役しろ」

「惣?本気か?」

いきなりの惣の申し出に気が抜けた様に穂群が膝を着く。

「ああ…早くしろよ!俺の気が変わらない内に…」
惣に力強く引き上げられ立ち上がる事が出来た。

「いいのか?暫くはお前が式神になる事になるが…」

「良いから急げ…」
穂群の手を離し自由にしてやる。
そう言い放つ惣をに笑いかけると先程とは違う印を結ぶ。

「我、使役し式神よ…散!」
穂群の掌で蒼白い炎が上がり、護符が燃え尽きる。

そして…
惣に目を移す。

「使役されるべきモノよ…我の目となれ!そして…総ての厄を我の手中に収めよ!!」
穂群は、傷から流れる血で指を濡らす。
そのまま、惣の額に(眼)を書き込む。

「穂群…これは?」
左右の耳と手にも同じ事をされながら惣が問う。

「私の踏み入れない場所で、私の眼となり耳となり使役されるべきモノと言う証を刻んだ…」

「いつも血液なのか?」

いつの間にか異世界は、衣野家のリビングに戻っていた。

「そうだな…特に決まりは無いが血を使う事が多い…例えば筆や紙が無い場所でも用意出来る」

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