惣。
「今、起こそうかな…って思ってたんだ…熱は?」
覚醒して行く穂群の目前には、眞絢の姿があった。

「…少し楽になった…」

「汗…凄いよ?着替えなよ?」

新しい着替えを手渡す眞絢に穂群は目を細める。
「まるで…父親の様な言葉だな…さっき…惣が式神になった頃の夢を見ておった…」
次に差し出されたスポーツドリンクを受け取り穂群が笑う。

「穂群の人間味が増したのは惣のお陰なのかな?」

「こんな風に病に倒れる事も無かったものな…」

「早く…穂群の願いが叶うと良いね…」

「ああ…もう、これ以上、見送るのは嫌なのだがな…」
眞絢の前でも平気で汗に濡れた服を着替える。

「そうだね…ねぇ…惣と何かあったの?」

「何かとは?」

「あー…言っちゃって良いのか?親密度が上がってると言うか…惣の方が優位に居るみたいな…男女の関係?」

ベッドに横たわり、眞絢に背中を向けながら穂群が言う。

「ああ…」

「そうか…それは父親からすると複雑な気持ちになるね」
ため息混じりに眞絢が笑う。

「…それが嫌なのだ…恋うておっても、やがて…兄や父親の様な間柄になり、私を置いて行ってしまう…」

「でも、惣とは違うだろ?親父や俺の時より人間らしい」

「だと良いのだが…」

「惣と…ダメだったら…すぐ言えよ?」

「眞絢が戻って来てくれるのか?」
穂群が起き上がる。

「いいや…無理矢理にでも結婚して子供作るから…」

「そんな出来ない無茶はするな…」
穂群が眞絢の頬を撫でる。

「…ありがとう…あ…惣が戻ったかな?」
小さくカードキーを操作する音がする。
間髪を入れずに足音が部屋に近付く。

「起きてるのか?調子は?」
買い物袋をガサガサ言わせながら惣が顔を見せる。

「汗かいてたから着替えさせた所…じゃ、交代ね!」
いつもの笑顔で部屋出て行く眞絢に、袋の一つを渡す。

「これ、穂群を見ててくれたお礼ね!コーヒーとスコーン」

「何処に行っておったのだ?覚醒したら惣ではなく、眞絢が居てくれた」
少し甘えた様子で穂群が問う。
これが、眞絢の言う所の(惣の優位)だろうか?

「何処…って…穂群が言ったんだろ?抹茶味のフラペチーノが飲みたい…って」

「?!私がか?」

「うわ…覚えてないのか?」

「譫言か?覚えが無い…」

「じゃあ、要らない?」
少し意地悪く言う。

「嫌だ…欲しい…」

「じゃあ、薬飲んでからね…」
指定の量の錠剤を確かめて穂群に渡す。

「錠剤を飲むのは苦手だ…粉か薬湯が良い…」
滅多に薬を飲まない穂群が渋々と錠剤を受け取る。

「なんだよ…滲みるからとか…飲みにくいとか多いな…飲んだ?なら、はい…これ」
惣がプラカップを手渡す。

「ありがとう…そうだ…夢の続きを見る事が出来たぞ」

「夢?あの式神を引き受けた所?」
ばつが悪そうに惣が笑う。

「そうだ…」
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