惣。
翌日、大学へ向かう惣と穂群は一緒に家を出た。

「何かあったらすぐに知らせろよ?」

「分かっている…今日は下見に行くだけだ」

「うー…やっぱり一緒に行こうかな…」

「いや…惣は学業に励め…単位を落とすそ?しかし…昨日からなんだか過保護だな」
穂群が苦笑いする。

「なっ…そんな事は無い…」

「分かったから…しっかり励んで来い…」
穂群は、最後まで後ろ髪を引かれている惣を駅で見送る

(やれやれ…)
惣の姿を見送った穂群は、川沿いへと向かう。

(これが原因だろうか…)
椿の名刺を取り出す。
桜は満開を越し傍にある小さな水路を桜色に染めている。

(昼間来てみると…普通の住宅街なのだな…)
周りに目立つ高い建物は無く、閑静な住宅地である。
昨日に立ち寄った店を通り、古地図が示していた寺を目指す。
(確か…左手に丘が…)

しばらくして、穂群が辿り着いたのは(東予園)の名が掲げられた庭園だった。

「様変わりしたものだ…」
ゆっくりと門を潜る。

確かに、緩やかに傾斜があり丘だった事が伺える庭園を穂群は歩いた。

しかし、本当に歩くだけで終わった。

「庭園散策で終わったんだ?」

「ああ…何かを感じるんだがな…」
大学から帰った惣に歩き回った庭園の話を聞かせる。

「珍しいね…じゃあ…明日は俺も着いて行くから」

「明日?明日も行くのか?」

「講義は休みだしね…ダメか?」

「いや…また訪ねようとは考えていたが…」
再び庭園に足を運ぼう…とは考えていた
穂群だったが、連日通う事になってしまった。

「もう、殆ど散ってるのにな…騒ぎたいだけか?」
週末の桜並木は、花見客でごった返していた。

「この時期は仕方あるまいな…それ以外は気にも留めないであろうに…」
二人は葉桜になり緑が目立つ桜を横目に目的地へ向かう。

「ここ…結構広いんだな…」
桜並木を抜け、古木のある店を抜け二人は東予庭園を歩く。

「寺だった折の名残でも見つけられると良いのだが…」

犬の散歩をする者やジョギングを楽しむ者、寛ぐ家族連れなどが目立つ。

「…穂群は何か感じたか?」

「いや…昨日と変わらないが…惣は何か感じたのか?」

「感じた…ってのとは違うけど…気付いた事があるんだけど…ここが寺だったのかな?」
ここに本堂があったのだろうか?
古い急な石段を上った小高い丘に二人は
居た。

「気付いた事?」

「うん…この時期じゃなきゃ気付かなかったかも」
惣は顔を覗き込む穂群に笑いかける。

「分からない?この庭園、一本も桜の木が無いよね?」
丘から臨む景色は緑が広がり、桜色は見当たらない。
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