惣。
「やれやれ…また労咳か…まだ年季も明けていない。まぁ…明けた所で借金もあったろうに…」
日の当たらない離れの物置きに閉じ込められていた女郎が死んだ。
その割に誰も悲しむ様子もなく…それどころか、手馴れた様子で手筈を次々に整えて行く。
「これも東予寺か?」
戸板に乗せられ簾一枚を掛けられた女郎を下男達が荷物の様に運び出す。
「いや…最近埋葬が多くて…遺体は受け入れてくれんのや…」
女郎屋の主人が眉間にシワを寄せるも淡々と答え煙管を燻らす。
「どうする?」
「そうだねぇ…そこにはみ出してる長さの髪を切ってくれ…後は…戸板のまま海に流すしかないね」
「ああ、分かった…」
「そんな簡単に…誰も悲しまないのか?」
術を解いた穂群に惣は言う。
「あくまでも商売道具でしかないだからな…それに流行り病を店から出したのが広まると困りるからな…」
(それでも…直ぐに一杯になった…)
「…黒髪がか?」
(そう…その年は沢山の女郎がここに…)
「そして…それを弔う為に、お前が植えられたんだな?」
穂群の問いに白藤が頷く。
(桜を植えたの…何回も何回も…でも枯れる)
「そして…お前も色を失ったのだな?」
白藤の幹に穂群が触れる。
「東予寺は?」
(花街が消滅した頃に取り壊わされた…)
「あのう…永代供養墓に移し終わりました…」
本堂だった建物を見上げている尼僧に男達が恐る恐る声を掛ける。
仏像や仏具は新しく建立された寺院へと移されていた。
「ありがとうございます…」
静かに微笑む顔は、こね花街の人気を独り占めしていた楠太夫のままである。
生まれも育ちも花街の楠が仏門に入ったのも虐げられ、物の様に扱われ、消耗品の様に最期を迎える女郎達を弔いたいからである。
「まさか…投げ込まれた女郎達の骨の他に…あんなに黒髪が出て来るとは…」
思い出しただけでも気味が悪い様子で棟梁らしき男が身震いをする。
「ええ…元々、投げ込み寺ですから身元の判る方は少ないですが…ネエさん達を慰めて行くのがこれからの私の仕事だと思っています…」
(ここに桜がないのは…枯れるから…)
手には黒髪の束を持った藤の精が、少しだけフワフワと術の余韻に居る惣を不思議そうに見ていた。
「え?あ、ああ…」
「そして…お前も薄紫を無くしたんだな…流石は色街の女の力だな…死してなお、己より美しいモノに嫉妬するのか?」
黒髪を受け取り穂群が笑う。
その力は、弔いの為に植えられる桜を枯らし、藤の色を奪う。
そして…
現世の男すら惹きつける。