惣。
「どうだろうな…それは椿次第だ…」
穂群は藤の精から預かった毛束を現した。
「これ…」
触れようとする椿の指を穂群が交わす。

「お前に託す…どうするかは好きにすれば良い…」

「分かった…」
椿の返事に、穂群はにっこりと笑い毛束を差し出した。

椿が毛束に触れると同時に、心地よい微睡が椿を包み、桜の木に寄り掛かり穂群の術中に堕ちて行く。

「やれやれ…」
一人で店内に戻った穂群が、オーナーに笑いかける。

「なんでも…桜をイメージした作品を思い付いたらしい…イメージを纏めたいそうだ…」


「なぁ、穂群…椿さんは?」
店を出た途端に惣が問う。

「ん?惣と見て来たモノと毛束の持ち主の記憶を見せているだけだ…」

「それって…それでも毛束を手元に置きたい…って思ったら、ずっと呪縛が続くんだろ?」

「そうだな…」
思った以上に穂群があっさりと答えたので、惣の足が止まる。

「良いのか?」
歩みを止めなかった穂群に追い付こうと早歩きをする。

「椿次第だ…すぐに結果は出ないだろうがな…」

「どう言う事だよ?」

「惣の方が詳しいだろう?」

「何だよ?分からないだろ?」

「どの位で土壌のphは変わるのだ?」

「混ぜた物に寄って違うだろうけど…もしかして…」
答えを察した惣が穂群の顔を覗き込む。

「椿に託した…もし、遊女達の事を不憫に思い、呪縛から解き放たれようと思うならば、あの赤い紫陽花の根元に毛束を納めろ…と」

「穂群!来てたのか?」
初日を待ちわびた観客や、贔屓筋から贈られた花や反物で混雑するロビーで穂群を見つけた椿は穂群の髪を引っ張る。

「あ…ああ…」

「そう、構えるなよ…珍しいな今日は結ってあるのか?」


「それは…そうだが…」

「間に合って良かったよな…」
椿が人懐こい笑顔を見せる。

どの事を言っているのか?穂群は困惑する。

「そうだな…」

「見たか?惣のデザイン」

頭を悩まし、舞踊の演出と衣装等のデザインを惣は形にした。

「かなり悩んで居たがな…」

「そうか…惣に関しては俺の仕事は少なかった…」

あんなに頭を悩ませていた惣の舞踊の振りは直ぐに決まった。
東予寺や遊女達をイメージしたらしい。

「その分、衣装部は早替えに苦労したらしいがな」

「そうか…楽屋行くのか?」

「ああ…椿は行かないのか?」

「舞台袖に待機なんだよ…惣に伝えてくれ、初日と満員御礼おめでとうございます…って」

「伝えよう…」

「それから…」
返した踵を止め椿の声に穂群は振り返る。

「ありがとう…って…な」
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