惣。

「悪いな…呼び出して…」
椿は興行主が準備した倉庫で、床山としての仕事をしていた。

「これ…揚巻?」

「ああ…笄を押さえてた天蚕糸が切れたらしくて…眞絢さんが使うんだよ」

「あんな日焼けしてるから白粉の塗り込み大変だろうな…」

「ゴルフ焼けか?」

「時代物ドラマの合戦焼けだよ…で…俺は何で呼ばれたの?」

「ああ…穂群の結髪見たか?」
惣の予想通り穂群絡みだった。

「見て無いよ…帰って来た時には短くなってたし…」
自分しか触れていない穂群の黒髪に触れた椿に少しだけ構える。

「勿体無いよな…」
椿が道具箱を漁る。

「結構、似合ってるけどね」

「当たり前だ…俺が切ったんだから」
顔を見合せて笑うと、椿が小箱を差し出す。

「開けるのか?」
小箱には老舗の化粧道具を扱う店の屋号が書いてある。

頷く椿に従い箱を開く。

「紅筆?」

「そ…穂群の黒髪で作って貰った…」
天蚕糸を結び切りながら椿が言う。

「人毛なのか?普通、鼬や山羊だろ?」

「痛みの少ないバージン・ヘアーだったからな、穂群に頼んで分けて貰った。貴
重なんだぞ?本来、赤ちゃんの髪で作る
位だ…」

「そうなのか?」
柄に惣の名前が、刻まれている。

「昔は櫛についた抜け毛を集めて置いて
、針山の中に入れたりしてたんだ…人毛
は適度な油分があるからな」

「穂群が?」
触れた筆先には丁度良いコシが返る。

「ああ…俺がチークブラシを作らせてもらうのに分けて貰ったんだ…お前と眞絢
さん、都織にも…って穂群が」
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