スピン☆オフ
今までの事を思い出して、涙が止まらない。


尚吾に、何回支えてもらっただろう?


どれだけ愛してくれただろう?


答えられず逃げていたのに、いつも真っすぐに向き合ってくれて…。


軽蔑するわけでも、嫌うわけでもなく。


ずっと、あたしだけを見てくれてた。


自分で願ってたことなのに、心がついていかなくて。


お姉さんの部屋のドアを見つめながら泣くしか出来ない。


あたしは、ホントにバカだ…。



----2~3分だった。 


尚吾は、不機嫌そうな顔をしながら出てきた。


チラッと、あたしを見ると、何も見なかったかのようにリビングを出ていった。


「待って!!」


勝手に口走り、出ていこうとする尚吾の背中にとっさに抱きついた。




「…………………。」


何を言うわけでも、振り向いて抱きしめてくれる事もなく、ただ立ち止まっていた。


「…いかないで。」


たった一言の精一杯の勇気だった。


ワガママなのは分かってる。


霧生を忘れていないのに。


自分で誰かとくっついて欲しいなんて思ってたのに。


いざとなったら、手放すのが惜しくなって。


必死になって尚吾にしがみついてる。


自分でも呆れるくらい都合のいい女だ。



トクン…

トクン…


尚吾の鼓動が、背中越しに聞こえてきて。


初めてだった。


こんなに温かい尚吾の体温が伝わってくるのは。


それでも、尚吾は変わらず不機嫌そうにうつむいたまま。


「……今日のこと、怒ってるの?」


震えるような声で聞いた。


「……………。」


あたしを振り払うかのように、無言のまま家を出て行った。


その後姿を泣きながら立ち尽くして見ているしかできなかった。


部屋に戻ると、ベッドの上でうずくまって泣いていた。


霧生のことも…。

尚吾のことも…。


何もかもが、自分のエゴでしかない気がして。


チャララ~

チャララ~


急に携帯が鳴りだした。


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