スピン☆オフ
「でも、あたしは霧生が忘れられなくて…。でも、尚吾が好きになってく自分がいて。どうしていいか分からなくて。」


「それも含めての唯だろ?忘れられない奴がいたって、オレは好きだ。」


久しぶりに抱きしめられた尚吾の腕の中は、やっぱり一番安心した。


「はい!!!そこまで。」


嫉ましそうな目でこっちを見ながら、腕を組んで立っている。


「うるせっ!!黙れバ~カっ!!!」


見下すように、冷たい目線でお姉さんを見た。


「…尚吾?」


ゆっくりと顔を上げ、尚吾の顔を見上げた。


バチンッ!!!


部屋中に響き渡る破裂音。


「痛ってぇ~!!」


頬を押さえながら、尚吾が一歩下がった。


「どさくさに紛れて、ケツ触るな!!!」


眉間に深いシワが寄っちゃって、甘い雰囲気が一変。


あたしの平手打ちが飛び出した。


「いいじゃねぇかよ。」


泣きそうな声。


「よくないし!!やっぱり尚吾最低!!!!」


尚吾がいい奴なんて、見直したのに。


感動的な場面で、やっぱりエロで空気落とすか?!


「私だったら、いくらでも触っていいのに。」


甘い声で、尚吾の後ろからお姉さんが抱くつく。


「ふざけんなよ!!!オレは、男のケツを触る趣味はない。」


お姉さんの腕を振りほどこうと、必死に頬を押さえながらもがいてる。


「大丈夫。今は、戸籍まで女に変えたから。」


お姉さんも、ここぞとばかりにしがみついてる。


「ちょっと!!ここぞとばかりに尚吾にくっつかないで!」


男と分かってても、やっぱりイチャイチャしてるみたいで妬けちゃう。


「何言ってるんだか?別に、取られても構わないんでしょ?」


嫌味がグサリと胸に刺さる。


「そっ…それは…。」


数分前まで思ってたから、言い返せない。


「その程度の気持ちなら、アンタなんかに尚吾君は渡さないんだから!!」


「そっ…それは…………。今は、違うもん。」


言葉に詰まりながらも、今ここで向き合わなかったら、何も変わらない気がして。

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