その妖、危険につき
その人は、若い男の人みたいだった。血の気の引いた顔をしていて、呼吸が荒くなっていた。

私は震える手でバッグからケータイを出した。

「……救急車っ」

うまく動かせない手で、119を押そうとしたとき、私の手首をがしっと掴まれた。


「余計なこと、すんじゃ、ねえ…」

見るからに重症なのに、その力がものすごく強くて、痛くて手に力が入らなかった。

「痛っ…、でも、怪我が」

「うるせえ、殺すぞ」

自分が死にそうなくせに。


彼は怖い。この力も、私を睨む目も、怖い。

だけど放っておけなかった。いい言い方をすればこんな大怪我をしている人をそのままにしておけないってことで、悪く言えば、ただ私が放っておいたせいでこの人が死んだらと思ったら怖かったのだ。
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