その妖、危険につき
遅い頭でやっと事態を呑みこみ、抵抗しようと彼の胸を押し返してもびくともしない。


「っやだ!」

私はなけなしの抵抗で彼の唇を噛んだ。彼の唇が離れ、私はそのすきに逃げようとしたが叶わなかった。彼が私に馬乗りになり、片手で私を押さえつけたのだ。


「痛え…」

彼は唇を嘗め、指で私が噛んだところをなぞった。そこには血が滲んでいた。


怖い、と思うと同時に、彼の姿が艶かしくて、美しいとさえ思ってしまった。そんなことを思う自分が信じられなかった。


彼は不機嫌そうな顔をしていたが、ふいに唇を吊り上げ、何か企んでいるような悪い笑みを浮かべた。
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