時を渡る彼ら
新聞を広げるおっちゃん。iPodを聴く大学生。とりとめのない話をする他高の女子高生。寝ているばあちゃん。とまあそれぞれ電車の中での過ごしかたは十人十色だが、
僕と絵夢の場合は、
ドアの側に立ち、絵夢から今日の出来事、もとい何をやらかしたかを聞きながら姫咲駅に着くのを待っていた。
まもなく時刻は7時に差し掛かろうとしている。

古い自転車がブレーキを書けるような嫌な音を立てて電車は姫咲駅についた。

その途端

「はっ!」

我に還ったかのような声を絵夢が出した。

「どうした?」
「アニメを見逃しちゃうーー! お兄ちゃんこれ持ってて!」
「おい! 絵夢!!」

そのまま自慢の足で走り去っていった、荷物だけを残して。
あいつ、家の鍵持ってたっけ?
僕はポケットを探る。
鍵は僕が持っていた。
軽く溜め息をつき、駅を出た。
長く緩やかな上り坂を登る。コンビニの角を左折したら家はもうすぐだ。
すると、
何か固い物を踏んだ。
見ると今朝落ちていたネックレスだった。
ガードレールに架けておいたのに、なんでまた地面に落ちているんだろうか。
持ち主はまだ現れていないらしい。
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