あの子の好きな子



「先生は・・・得意なスポーツ何ですか?」

少しでも話の方向を変えたくて、笑顔を作りながら先生に話を振った。

「うーん、全体的に、あんまり得意じゃないんだよな。マシなのは卓球ぐらいかな」
「ああ、そっか、それで卓球部の顧問なんですか」
「いや、たまたまなんだけどね」
「卓球か、いつかやってみたいな」

もちろん人生で卓球をしたことがないわけではない。いつか、先生としたい。温泉宿なんかで、お風呂上がりに、浴衣を着て。卓球というワードだけで温泉旅行まで妄想してしまう自分がちょっと恥ずかしくなった。そんなしょうもない妄想をしていたら、先生がまた私の言われたくないことを言い放った。

「そういえば、久保、ずいぶん話題の人になってるなあ」

どくんと心臓が鳴る。ばれてはいけない秘密がばれたときのような緊張があった。

「・・・先生知ってるの?」
「何回か聞いたよ。佐々木と久保と球技大会っていうワードがやたら飛び交ってるみたいだね」
「・・・・・・」
「あ、ごめん。あんまり先生がこういうこと言ったらだめか」

そういうことじゃない。教師だからとか、そういうことじゃない。ただ篠田先生には言われたくなかったよ。

「・・・先生、前にも、私と佐々木くんのこと言ってたけど・・・」
「ああ、うん」
「本当になんでもないんです。噂が・・・独り歩きしてるだけで、私・・・」

言葉に詰まる。うつむいて何も言えなくなった私を、先生は心配そうに見ている。その視線も辛かった。私を見ないでほしい。会長の好意を、なかったことにして、自分だけかわいそうな振りをする私なんて見ないでほしいと思った。


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