あの子の好きな子
「だから・・・、仕方ないじゃん!」
感情を吐き出すだけ吐き出すと、私はもうそこにはいられなかった。立ち尽くす先生を残して、今度こそ準備室を後にした。せっかく、せっかく先生との時間を取り戻したのに。また自分の感情をぶつけてしまった。好きな気持ちが強いほど、好きな人から遠ざかってしまう結果になるなんて馬鹿げてる。結局私は先生に近付くことも諦めることもできないんだ。先生の笑顔も、3年間の幸福も手に入らない。
泣きながら教室に帰ったりしたらまた変な噂を立てられるから、しばらく女子トイレの個室でしゃがんでいた。自分の膝を抱き締めると、急に空しさが襲ってくる。
「遥香ってば、全然いつもの調子じゃないんだもん、おかげで負けちゃったよ」
球技大会当日、バレーボールの試合のあとにそう言われた。私のメンタルコンディションはとてもワンツーアタックなんてしている場合ではなく、無理もないと思う。結局うちのクラスの女子バレーボール部門は黒星に終わり、クラス優勝が少し遠のいてほっとした。私があまりにもミスを連発するから、告白を避けた八百長ではないかと一部で言われていたけど、そんなことも気にならないくらいに感情が麻痺していた。
バレーボールが終わったあとは男子のバスケットボールの試合を観戦していた。会長もバスケチームにいるらしく、シュートを決めるたびに告白宣言のことをからかわれていた。結局、対戦相手のチームがたまたまバスケ部の多いクラスだったので、バスケの試合も惨敗だった。クラスのムードが盛り下がっていく。
「あーあ、全然ダメだね、うちのクラス」
「・・・うん」
「ねえ遥香、ここのとこ変だよ。ずっとうわの空で」
「うん・・・」
「だめだこりゃ」
あれから私はずっと抜け殻状態だった。おかげで噂の声も耳に入らなくて、ある意味精神状態は安定していた。ただ、一番どん底のラインを安定的に推移しているという意味で。