涙の海
記憶
目を覚ますといつもの光景だった

深い青に守られた海

そう、私は魚
決して夢の生き物とは関係ない世界にいる

「おや、お目覚めか」

歳老いた海亀が話しかけてきた
彼の名前はアルバート
この近海「アクアガーデン」で最も長く生きている、いわば長老だ
長く生きているだけにその知識はかなりのものである

「またあの夢を見たの」

私は何度もあの夢を見る
そのことをアルバートにいつも相談していた

「ふむ。マリン、もしかしたら君は前世は人間だったのかも知れんな」

マリンとは私の名前で、アクアガーデンの外で傷だらけで漂い、記憶さえ無くした私にアルバートがつけてくれた名前だ
傷だらけだったのはおそらくサメに襲われたのだろう
今も頭に傷が残っている
その前はどこの海にいたのかも分からない

「人間って?」

初めて聞く言葉に疑問を持つ

「人間とは海の外、わしはともかくマリン達魚には到底辿りつけん場所におる生き物じゃ。マリンの話を聞くに、その生き物の特徴は人間に似ておるのぅ」

「前世が人間って?」

質問ばかりで申し訳ないがさっきまで夢の生き物とは関係ないと決めつけていただけに気になる

「さっきも言ったとおり、マリン達魚は決して人間のいる場所には近けん。そうなると考えられるのは前世の記憶が夢に現れたんじゃろう。まぁ、あまり気にせんことじゃな」

確かに、たかが夢なんだ
それならば忘れてしまうのがいい

「じゃあ、遊びに行ってくるね」

そう言うと私は他の仲間のもとに向かった

「アクアガーデンからは絶対出るなよ〜」

アルバートの叫びはもう聞こえていなかった
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