煙草屋の角
「自販機?」
「うん、お金の回収」
トントン、と、土間で傘の水を払う。裸電球の薄暗い明かりの中、濡れた前髪が額に張り付いている。彼女の開けた冷蔵庫の中がやけに明るいな、と感じていると、目の前でよく冷えた麦茶が注がれた。
「男物のシャツでもあれば貸したげたいんだけど、無いんだよねー」
と、その時鳴り響いた雷鳴に、抱きついて来たりはしない。そんなことはない。
「やだ、雷?」
もっと近ければいいのに、なんて。彼女のことが気になる、興味を持っている、なんて、そんな中途半端な想いを抱き始めたのはいつの頃からか。
僕は外の様子を伺ってみようと、勝手口を開けてみた。瞬間、閃光に青白く照らし出される台所。
「傘貸すね。あ、でも、もう少し小降りになるま……」
キィちゃんの言葉を、遅れて轟く雷鳴が遮った。びくりと彼女は肩を竦める。
「僕ね、来週転属になるんだ。今更新宿の本社に栄転」
「え? あ、そうなんだ……良かったじゃないですか」
キィちゃんのこの笑顔も見れなくなるのだ。しかし、逆に考えればもう顔を合わせなくて済む。そう、例えば今ここで彼女に告白して振られたとしても、気まずさや居心地の悪さは感じなくて済む。想像しただけで背中から胸の辺りまでが疼き、どこか重くなるような感覚。例えばの話だ。それでも、どうせこれっきりと言う思いが僕の背中を押した。
「うん、お金の回収」
トントン、と、土間で傘の水を払う。裸電球の薄暗い明かりの中、濡れた前髪が額に張り付いている。彼女の開けた冷蔵庫の中がやけに明るいな、と感じていると、目の前でよく冷えた麦茶が注がれた。
「男物のシャツでもあれば貸したげたいんだけど、無いんだよねー」
と、その時鳴り響いた雷鳴に、抱きついて来たりはしない。そんなことはない。
「やだ、雷?」
もっと近ければいいのに、なんて。彼女のことが気になる、興味を持っている、なんて、そんな中途半端な想いを抱き始めたのはいつの頃からか。
僕は外の様子を伺ってみようと、勝手口を開けてみた。瞬間、閃光に青白く照らし出される台所。
「傘貸すね。あ、でも、もう少し小降りになるま……」
キィちゃんの言葉を、遅れて轟く雷鳴が遮った。びくりと彼女は肩を竦める。
「僕ね、来週転属になるんだ。今更新宿の本社に栄転」
「え? あ、そうなんだ……良かったじゃないですか」
キィちゃんのこの笑顔も見れなくなるのだ。しかし、逆に考えればもう顔を合わせなくて済む。そう、例えば今ここで彼女に告白して振られたとしても、気まずさや居心地の悪さは感じなくて済む。想像しただけで背中から胸の辺りまでが疼き、どこか重くなるような感覚。例えばの話だ。それでも、どうせこれっきりと言う思いが僕の背中を押した。