夫婦ごっこ
膝を抱えてボーっとしてた。

大嫌いな千鶴さんの気持ちがわかってしまう自分がイヤ。

ビオン心配してるだろうな…。
優しくしてくれたのに…私…逃げるように
飛び出したから。

鍵の開く音がした。

「ただいま。」

恒くんが疲れた様子で帰って来た。
私は何も声をかける言葉すら見つけられないくらい
ボーっとしていた。

「紅波?」

「あ……。まだご飯作ってないわ。」

ふらついたら恒くんが手を貸してくれた。
ビオンの華奢さとは少し違う 大人の男の体…。

「ごめん…。」

とても何かする気にもならない。

そのまままたしゃがみこんだ。

「いいよ 紅波も驚いたんだろう。
千鶴は大丈夫だから安心しろ。よかったよ。
紅波には感謝する。ありがとう。」

「死なせてやればよかったんじゃない。
それとも死ぬ気もなくて狂言だったのかも。」

口からひどい言葉が出てきても
もう私は止められなかった。
そのひどい言葉は 自分に対してぶつける言葉でもあった。

「自分の思うまま人を巻き込んで
何を最終的に手に入れたいんだろう。」


「どうしたんだ?紅波…。」

恒くんが私を覗き込んだ。
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