夫婦ごっこ

寝不足のせいか体調が悪かった。
仕事帰りにスーパーによって　買い物をして
社宅の敷地に戻って来た。


「紅波ちゃん。」
呼ばれてふり向くと　前さんがいた。

「すみません。千鶴が迷惑をかけて。
本当にすみませんでした。
助けてくれてありがとうございました。」

深く頭を下げる前さん
大きな体を小さくして何度も頭を下げる。

「千鶴さんいかがですか。」

「さっき会ってきたけど　落ち着いてるから
入院の用意しに戻って来たんだ。


「長くなりそうなんですか？」

「三日後に退院だって。


喜ぶべきなのか…前さんの前で必死に笑顔を作る。
でも心の底に喜べない私がいる。


また恒くんを惑わすんだろう…。


「あの…前さん…
千鶴さんそんなに思いつめて…帰ってきて
大丈夫なんですか？」


言葉がうまく見つからない。
だけど…ここがうまくいかないことには
恒くんと私の生活にも支障が出るのは確かだった。


前さんも私がどこまで知ってるのか
探っているようだった。

「大浦からなんか聞いてる？」

前さんの顔が真顔になった。