夫婦ごっこ

「親身に相談にのってくれて…私もいつしか
ともちんの大らかな笑顔に癒されていって…特別な
感情を抱くようになっていたの。
相変わらず　大浦くんからの扱いはちゃらんぽらんで…
女としての自信も失いかけてたけど
ともちんの存在は大きかった。
異動が決まって…私はともちんを失う喪失感で一杯だったけど
一緒に行ってくれないかって
ﾌﾟﾛﾎﾟｰｽﾞされて……迷わずはいって言ったの。」

「恒くんのことは…？」

「あんなに好きだったのに…辛くても切なくても
ずっとついてきたけど　ともちんが私の居場所を明るく
照らしてくれた……。居場所が…心地よかったから…。
前触れもなくその事を打ち明けた時
今までのうっぷんが…爆発して…コーヒーが
飛び散って壁をよごしちゃった。」

あの引越しの日
ポスターで隠れてた壁のシミをみて
恒くんはしばらく動かなかったっけ…。


「まさかの私の裏切りはきっと　彼を
最高に傷つけたんだと思う。
だけど私はもう…決めていたの。
ともちんとなら　幸せになれるって……。
だから大浦くんのこと捨てて　ともちんと結婚して
旭川に行って…楽しかった。
だけどまた異動で　同じ部になって……
結婚して隣に来ることをしって
困惑したよ。　いろんな感情が入り乱れて……
多分若くて可愛い奥さんにも嫉妬したんだろうね。」


点滴がゆっくり落ちて行く。


「私がみんなを振りまわせて…
本当にごめんなさい…。許してもらえないと
思うけど……大浦くんにもちゃんと
話してみるから…。」

文句はたくさんあったけど…
もう何も言えなかった。

私もビオンの出現で…千鶴さんの逃げたい気持ちが
理解できたから……。