夫婦ごっこ
ライブで見たビオンはとても大きく見えた。
事務所の人や音楽関係 写真撮影とかが来ていて
ビオンが遠くに感じた。

「ベニー来てくれたの?」

ミミちゃんがニコニコやってきた。

「ビオンすごいね。芸能人みたい。」

「ほんとね。お客さんも集まってくれたし…
いい夢みれそうよ。」

「シゲちゃんは?」

「ビオンにべったりくっついて初舞台の心得を
伝授して来るって言ってるわ。」

「すごいね 本当にデビューするんだね。」

身近だったビオンが遠くに行ってしまう
そんな気がして

寂しくなった。


  もう贅沢なことできないね。

私には友人がいなかったから自分にとっては
初めて心を見せられる特別な存在のビオンだった。


ライブハウスに響き渡る歌声に 私は酔っていた。


「今日はありがとうございます。
最後の曲は デビュー曲になると思います。
俺がもがき苦しんでいた歌うということに希望と勇気をくれた
恩人に感謝しながら歌いたいと思います。
聞いてください。」


一番最後の曲は 好きな人の前で 必死に友達という
ポジションを守り続ける男の歌だった。
切なくて 悲しくて
その愛しい人を抱きしめて 自分のものにしたいと思うのに
勇気がなくて いい人のフリをして別れる。
勇気があれば…勇気さえあれば その一歩を越えられるのに…
そんな切ない歌を歌いあげた。


その勇気のない男と 自分がかぶった。

ビオンが勇気を出せ


そう背中を押してくれたような気がした。
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