夫婦ごっこ
「おはようございます。」

振り返ると千鶴さんが立っていた。

前さん夫婦は明日引越しすることになっていた。

「あ…おはようございます。」

私はあまりのショックに言葉を噛みそうになった。

「千鶴さん…知ってますか?
私の噂……。」

「気にしない方がいいよ。
あの人たちは ああいうこと言うの好きだから。」

「私…そんなこと……。
教えてもらえますか?」

「うん…。ともちんからその話を聞いた時は二人で
笑っちゃったんだけどね この間…抱き合ってたって
紅波ちゃんが若い男の子と……。
多分それをたまたま見かけていたのは
大浦くんをよく思ってない会社の人たちだったみたいで
あっという間に社内に広がったみたいなの。
それが社宅の奥さんたちの耳にも入って
そしたら 紅波ちゃんがよく午前中出かけるから……
それでその話が大きくなっちゃったみたい。」

「恒くん……も…知ってる?」

千鶴さんは困ったように

「うん。けっこう攻撃されたり嫌味言われたりしてるみたい。」

「いつからですか?」

「ここ最近だと思うけど……。」


頭を思いっきり殴られたような衝撃だった。
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