夫婦ごっこ
周辺の観光地に車を走らせてくれた。

美しい湖に私までもが唸った。
深い森の中に青い湖……


私の心の底なんてちっぽけに思えるくらいだった。

恒くんはいろいろ説明して歩いてくれた。
もちろんこことばかりに私は恒くんの腕をとる。

世界一幸せな女の子を演じるのは 結構楽しい。


父親は写真を撮りまくっていた。


「家族で撮りますか?」恒くんが言うと

「いや…。それじゃあ三人で撮ってくれるかい。」

私だって一緒になんて入りたくないけどね。
やっぱりこの人たちには私は必要のない人間なんだ。

わかっててもやっぱり辛いものだった。

私はシャッターを押す恒くんの背中に顔を隠した。


  もう絶対に会いたくないわ……

必死に笑顔をつくろった。
自分からは話かけはしなかったけど
恒くんがうまく演じてくれて その演技がまるで
本当のように感じて 恥ずかしくなったりドキドキしたり


私の心はすっかり乙女になっている。


  演技だよ 演技だって……。

そう言い聞かせるけどドキドキする。

夕方やっと三人をホテルに送り届けた。



< 54 / 346 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop