夫婦ごっこ

「なんだ？どうした？」
恒くんを呼んできた。

「悪いんだけどさ…週末函館だよな。」

「そうだけど？」

「図々しいんだけど千鶴を一緒に連れて行ってくれないか。」

「何で？」

「週末　千鶴の実家に行く予定だったんだけどさ
ほら…俺　今回の仕事ミスったろ。行けなくてさ。
千鶴のお父さん　具合悪くて…危ないらしいんだよ。
いつ逝ってもおかしくないって……。
あいつ父さん子だったからさ……少し向こうにそのまま
置いて行こうと思ってたんだ。」

「大事な仕事でミスするおまえが悪い。」

「まったくそうなんだけどさ。いろいろあって…
だから申し訳ないけど…連れて行ってもえらえないかな。
おまえたち大学でも一緒だったし…千鶴は
一人で行くって言ってるんだけど……。」

前さんは懇願するように言った。

「わかったよ。」

気乗りしない声で恒くんが言った。


「ありがと。助かるよ。
連れて行ってもらえたら俺も安心だよ。
荷物も結構あるし…よかった。」


前さんは何度も礼を言って帰って行った。

「フーッ……。」

私はその様子を部屋から見ていたけど
恒くんが大きなため息をついたのが不思議だった。

　　どうしてそんなに前さん嫌いなのかな…。