オカルトチックな彼女!
1、テスト期間と彼の事情
季節は春と夏の境目。心地よい陽気と、どこか肌をくすぐる寒さが残る。
ゴールデンウィークが過ぎて、もう一か月近く。俺たち新涼高校オカルト研究部にまた新たな危機が迫ろうとしていた。
「おうっ! 遅かったのぅ、日堂 流っ! まずはほれ、ここに座れぃ!」
入室した瞬間に感じる息苦しい空気。勉強不足の生徒たちにも負けず劣らず、テスト前の職員室では切羽詰った、慌しい雰囲気が漂っていた。
そんな緊迫した空間に、どこまでも無天気で場違いなダミ声が響き渡る。
「……三条先生、少しは空気を読んだほうがいいと思います」
そう言って、俺は差し出されたパイプ椅子に腰を掛ける。
そんな俺の言葉に、機嫌良さげに木刀をブンブンと振り回し、どっからどうみても悪者……というか、ラスボスばりの威圧感たっぷりの笑顔を浮かべて、
「がはははっ、いくら今はカタギとはいえ、空気なんか読んどったら、元三条組組長の名が廃るってもんだっ!」
あぁ、なんてことを大声で言い出すんだ、このアホおやぢは。
しっかしまあ、最近はもう先生方の対応も板についたものだ。
辺りを見回すと、ほとんどの先生方は完全に見て見ぬ振りをしている。ただ、隣では日本史の山本先生が茶を吹き出していた、お気の毒に。
御年四十六歳、体育教師 三条 龍虎。
子供が見たら一発でトラウマものの強面と、尋常ではない筋肉に包まれたその大柄な体格。竹刀ではなく木刀、ジャージではなくスエット……どう見ても、神聖な学び舎には決しておいてはならない、完全に常軌を逸した存在である。
「それで、今日は何のようですか、三条先生」
気は進まないが話を進め、俺はなるべく早く用を済ませることを選んだ。
「……まぁわかっとるとは思うが……ユキちゃんのことじゃ……」
どこか歯切れの悪い言葉。
ぷっ、そりゃそうだ。小さい子供を背負って妻に逃げられ、その子を教え子にもつ夫の気持ちなんざ一生わかりたくもな――。
「おい、今、お前なんか失礼なこと考えとらんかったか?」
「あはははっ、そんなわけないじゃないですか」
寿命が二週間縮んだ。