君の声

それから数日間、彼女は警戒して、ずっと部屋の隅で壁を見て生活していた。



もしかしたら僕はとんでもないことをしてしまったのかもしれない。



けれど、彼女はもう僕のところから逃げることはなかった。


きっと彼女は、居られる場所がなかったのだろう…




半年経った今は、僕に笑顔を見せてくれるようにまでなった。


だけど…



「今度の日曜、海行こうか?」

「………」



彼女は返事に戸惑っていた。


僕がうちに連れてきてから彼女は一歩も外に出ていなかった。


「暗くなったら花火もいいな」

「………」

「無理に行くことはないけどな」



彼女は何も話さない。


声が…出ないようだ。



名前もわからなかったから、僕が勝手に付けた。


「サチ、浴衣も似合うだろうな。祭りとか…」

「………」

「僕?僕は別に行きたくないよ。人込みよりサチとこうして二人で居る方がいい」


家の中ばかりじゃ気が詰まるんじゃないかと提案したが、サチはまだ外に出たくないようだ。


逆に僕の方が気を遣われてしまった。

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