君の声
サチは僕の横にちょこんと座った。
が、なんだか落ち着かない様子だった。
「サチちゃんさぁ、コイツのどこがよかったの?俺に乗り換えない?」
「何言ってんだよ!」
「冗談だよ!そんなにムキにならなくてもいいだろー?なぁサチちゃん」
サチは愛想笑いを浮かべてはいたけど、見ると体は微妙に震えていた。
「サチちゃんはどこ出身なの?」
「………」
「…ノブ!おまえ肩にフンがついてるぞ!」
「えっ!?マジかよー…」
「そうだ、今日会社でおまえ…」
僕は、なるべくサチに目を向けないような話ばかりをして、時間を持たせた。
「ノブ、終電間に合うか?」
「え?おー、もうこんな時間か…、明日も仕事か…、帰るわ。愛の巣に泊めて?って言えねぇしな」
「別に…いいけど…」
「いや、俺もかわいいタマちゃんが家で待ってるからな。じゃ、ごちそうさーん」
「下まで送るよ。階段危ないから」
「だぁいじょうぶだよぉ、おおっと…」
「ほらみろー」
酔っ払ったノブを送って部屋に戻ると、サチは片付けをしていた。
サチにとっては知らない人との空間は苦痛だったに違いない。