君の声
「え?…でも人違いだって行ってしまいましたよ」
「僕にもなんでかわからないんだよ…!」
つい声が大きくなってしまった。
道行く人々にも振り向かれた…。
「もう…、あの人のことは忘れてください」
「…なんで君にそんなこと言われなきゃいけないんだよ」
「忘れさせてあげます!」
杏香さんは僕にキスをしようとした。
僕はふいに顔をそらした。
「ごめん…。僕は君と付き合うことはできない…。早くに言えばよかったんだけど…」
「いやです!私はあなたのことが…」
「僕はサチ…さっきのあの娘のことを愛している!だから君とは…」
「いやですっ…!やだ……」
杏香さんは泣いて…
帰っていった…。
道行く人々は僕を白い目で見ていた…。
年の瀬の夕暮れ
空だけがあたたかな色だった…。
それからは、もう杏香さんから電話がくることもなかった。
わかってくれたのだと、勝手に安心していた。
年が明けた。
僕が配る年賀状の中にサチの居所や、実家はなかった…。