まだ、君を愛してる.doc
四人で座るには、やや小さい気がするテーブル。どうも店員が予約の時間を間違えていたようだ。だから、とりあえずでここに通された。
「ごめんね、ちゃんと予約が取れてなかったみたいで。」
親友が謝った。
「ううん、気にしないで。あんなに謝ってたし、それに空いたら、他の席に案内してくれるんでしょ?」
答えたのは愛花だった。それに続いて、茶髪の娘、えりが答えた。
「それに安くしてくれるって言うし、こうして有くんにぴったり寄り添えるし、いい事づくめだよ。」
有くんと言うのは、親友の事。まだ出会ったばかりだと言うのに、もう見初められている。中学の頃から色男だったが、それは今も続いている。
「うん、どうした?」
僕は何も話せずにいた。正直言って、僕にとっての愛花はどストライクだ。写真を一目見た時に、それは決定していた。そんな彼女を目の前にすると、写真よりも全然眩しくて、緊張は最高潮に達した。口の中が渇き、唇もはりつき、口を開くのさえままならない。
ヒリッとした痛みを唇に覚えながらも、一言だけ発した。
「な、なんでもない。」
「あっ!」
愛花が言った。
「何?」
「ちょっと待ってね。唇から血が出てる。」
今の痛みは、唇が裂けた痛みだった。ぷっくらと血が膨らみ、それを愛花が拭いてくれた。
「ありがとう。」
「このお店、乾燥してるもんね。これ、使う?」
リップクリームを僕に差し出した。リップクリームは、その名の通り、唇に塗るものだ。そして、彼女が差し出してくれたとなると、このリップクリームはただのリップクリームではなく、彼女が使い、至宝のものとなったリップクリームなのだ。僕がそれを使うとなれば、それは間接キス。間接だろうが、直接だろうが、キスであるには違いない。
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