まだ、君を愛してる.doc
舞い上がり、心が震えるが、それを彼女に伝えたら、引かれるのは必至だ。さりげなく、それを心掛けながら、ややぎこちない手付きで、それを使った。
天にも昇る、まさにそれ。けど、まだ我を失う訳にはいかない。彼女に格好良く返さなければならないのだから。
「これ、ありがとう。」
「ううん、気にしないで。それよりも大丈夫?」
「何が?」
「だって、全然話さないから。私が隣じゃなくて、えりの隣が良かった?」
有くんはどっち狙いかわかっている。だから、援護射撃をしてくれた。
「あ、たぶん、もう酔ってるんだと思う・・・」
「酔ってるって、まだ乾杯もしてないよ。」
えりが言った。
「こいつ、基本飲めないの。何せ、ビールの匂いだけで酔っ払っちゃうから。」
「嘘!」
「ホント。飲むのは、好きな女の子に格好つける時だけ、なぁ?」
余計な一言を、と思ったが覆水盆に返らず、二人の視線は僕へと注がれる。
「そうなの?!何、私と愛花、どっちが好み?」
あっけらかんと聞かれ、どうしたものやらわからない。そうだろう。これまでの短時間で、有くんとえりはお互い気に入っていると言うのが、ありありと伝わってくる。つまり、ここで“えり”と答えれば、もちろんフられるし、何よりも愛花が気分良くない。かと言って、“愛花”と伝えれば、いきなりの告白になってしまう訳だし、それに愛花がどう思っているのか、今ひとつ掴めていない。
答えに窮するとは、まさに今のような時に使うのだ。
「えっ、何、いきなり。」
「いきなり、じゃなくてさ。どっち?ねぇ、愛花だって気になるよねぇ?」
「うん、気にならないって言ったら、嘘になるかな?」
と言われてしまうと、答えざる得ない。どうする?気持ちは決まっているが、このタイミングは微妙なのだ。いくか、いかないか、どうする?
「・・・愛花ちゃんだねぇ。」
「何、それ。ひどい。」
えりは泣き真似をした。それから愛花を見て言った。
「良かったね、愛花。」
静かに頷いた。これの意味。その時にはわからなかった。それを知るのは、先の話だった。
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