まだ、君を愛してる.doc
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付き合いはじめ、その時は何でも許せてしまう。しかし、いつしかその感覚は薄れていき、些細な出来事がケンカの火種になってしまう。あの時のケンカも理由は思い出せない。けれども、ハッキリと忘れられない言葉、それを思い出すと、僕がいかにおかしな立場にいるのか、それを指し示していた。そう、あの時に気がつけば、つらい思いなんてしなくて済んだ。
「・・・」
「どうかした?」
「・・・」
デートで新宿の都庁に行った時だ。都庁の展望台に昇る前に、愛花は急に黙り込み、とりつく島がないほど不機嫌になった。
「ねぇ、なんか言ったら?」
「・・・」
「怒ってるならさ、理由くらい言ってくれなきゃわからないよ。」
「・・・」
「そんなに機嫌悪いなら帰る?」
「なんでそんな風に言うの?」
「なんでって、何も話してくれないから。」
「話さない理由わからないの?」
「ごめん、わからない。」
周りに人もいるから、語気を荒げないようにと、僕は気を遣いながら話した。けど、愛花にはそれがなく、大きく、声がどんどん大きくなっていく。
「みんな、見てるよ。声、小さく。」
「そんなの、関係ないじゃん。」
「関係ないって大人なんだからさ。」
「大人、あなたが大人?」
「そうだろ?二十歳過ぎたら大人。」
「本当の大人って、そうじゃないよ。」
「な、なんだよ。それ!」
一瞬、語気が強くなってしまった。
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