まだ、君を愛してる.doc
「今のそれとか、大人じゃないよね?」
誰かと比較しているような口調。その時は思いはしなかったが、あらためて思うと、確実に誰かと比較されていた。
「それは・・・言いがかりを言ってくるから・・・。違う?」
「言いがかりって、私が悪いんだ。」
ああ言えば、こう言う。僕はどうしたらいいんだ。自問自答するが、過去に
ないパターンに思えた。だから、明確な答えが導き出せず、黙っているしかなくなった。
「もういいよ。じゃあね。」
「えっ、あ、待てよ。」
「もういいって言ったでしょ。子供といくら話したって埒開かないよ。」
「な、なんなんだよ。」
「とにかく、もういい。やっぱり比べるまでもないんだな・・・」
最後の方、それは口を噤んだような感じで、はっきりとは聞こえなかった。けど、“比べる”って言った気がする。“比べる”ってどう言う事?他にも誰かいる?疑念が怒りに覆い被さる。疑念は行動を停止させ、僕が何者かすらわからなくするくらいに、すべてを突き放し、その場に立ち尽くさせた。
「く、比べる・・・」
やっと口から出てきた頃には、愛花の後ろ姿は小さくなり、それを慌てて追い掛けるしかなかった。
「待てよ。」
「えっ、もう、帰るって言ったよ。」
きっと僕のすべてが停止している時に言ったのだろうが、もちろん聴力も停止していた。仮に聴力が機能していたとしても、司る思考は停止していた。結果は同じだ。
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