まだ、君を愛してる.doc
「聞いてない!」
「だから、言ったって。しつこいな。」
「しつこくなんかない。こうするには理由があるんだから。」
「理由って?」
「簡単だよ。僕は愛花が好きなんだ。世界の誰よりも。だから、ずっと、ずっと愛花の一番でいたい。それじゃダメか?」
この言葉には、さっき聞こえた“比べる”が無意識に反映していた。それを考えて話した訳じゃない。けれども愛花には、それが聞こえていたと取れたのだろう。急に大人しくなり、僕の背中越しに見える都庁を見ながら、何かを考えているようだった。
都庁の先には流れゆく雲。上空は風が強いのか、どんどん形を変えていく。それは愛花の気持ちも変化していくと言うのを、何か僕に対して明示的に表現していたのかも知れない。
「・・・それで・・・」
「いいんだな?」
「・・・たぶん。」
歯切れの悪い返事。でも、それを自分の都合の良いように取ろう。愛花の手を取り、来た道を引き返した。
「行こ。」
「・・・」
愛花がどう思っているかなんて、全然わからない。けれど、漠然とだけどきれいな景色を一緒に見たら大丈夫な気がしていて、それがあったから、いつの間にか早足になっていた。
「速いよ。」
「ごめん。」
「もう、気持ちはわかったから。本当にわかったから。」
「ありがとう。だから、一緒に見て欲しいんだ。本当に、本当にきれいなんだよ。それを愛花と見たいんだ。」
「・・・うん。」
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