まだ、君を愛してる.doc
何度か愛花の家に行った事はあるが、最中に限らず甘いものの類が出てきた試しがない。根っからの酒飲みの家なんだと、僕は思っていただけに不安になった。
ここでも、そうだったのだ。もともと合うはずはなかったのだ。
「最中を嫌いな人なんているもんか。お母さん大好きだし、お父さんだって食べるよ。みんな、好きなんだよ。」
根拠のない自信。これはどこから来るのだろう。
そうこうしているうちに、やっと愛花とその両親がやって来た。
「すみません、遅れまして・・・」
腰の低そうな父親とどこか強気な感が拭えない母親、その後ろに愛花がいた。
「いえ、私たちも来たばかりですから。」
どこの家でもそうなのかも知れないけれど、この場の主役は僕と愛花のはずだが、双方の親同士が仕切り始め、傍観者となるしかなかった。
「・・・ですよね。」
「そうなんですよ。」
「ですから・・・」
「あら、やだ・・・」
テレビで見る主婦の会話。それが途切れなく続いていく。この間にどう割って入れると言うのだ。僕は長縄跳びが苦手だ。みんなが飛んでいるところに、自分もタイミングを見計らって入る。ただ、失敗したらみんなに迷惑が掛かってしまう。あの感覚。それに近しい。
「あ、あのさ・・・」
意を決してみた。どうだ?うまくいったか?少し様子を伺うように、母親から愛花の家族の方へと視線を移す。なんとも言えない空虚感、それを肌で感じつつ、でもこのままではダメなんだと、目で訴えた。
「何?」
「いや、ほら、あれ。」
母親の横に、最中の入った袋がある。僕はそれを指差した。
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