まだ、君を愛してる.doc
「あぁ、そうだったわ。」
「これ、つまらないものなんですけど・・・」
「ありがとうございます。」
最中を受け取ったのは、愛花のお父さんの方だった。
「これは・・・何ですか?」
「地元の名物なんですよ。」
「そうなんですか。でも、国分寺に名物があるなんて意外だなぁ。」
マズい。僕は感じた。母親はずっと、いや祖母もずっと国分寺生まれの国分寺育ち。誰よりも国分寺を愛していると言ってもおかしくはない。なのに、国分寺の悪口とも取れる発言。機嫌が悪くなっているのは、すぐにわかった。その証拠に眉間に深く皺が刻まれ、それに気づいたのか、慌てて元に戻していた。けど、年老いた肌は元に戻るまで、時間が掛かるのは僕の母親も同じで、深く、深く跡が残っていた。
「いや、国分寺にはたくさんの名物があるんですよ。ところでどちらの生まれですか?」
これは完全に戦闘モードだ。語気が強い。良くない。この席では良くない。
「えっと、越谷です。」
「そう、越谷ですか・・・」
それ以上言葉を継がない。代わりに渡した最中に視線をやった。つまりはお土産を持ってこなかったのかと、目で語っているのだ。
「あ、すいません。何も気づかなくて・・・」
どうやら何もないらしい。対して自分は持ってきた。なのに、この言いぐさ。面白いはずがない。濁った空気は、再び澄み渡る事はあるのだろうか。料理が一品、二品と出されてくるが、なんら変わっていかない。
僕は愛花を見た。愛花は首を振るだけだ。恐らく、愛花の両親も機嫌が悪くなっているのだろう。
どうする?どうする?どうする?
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