まだ、君を愛してる.doc
なんやかんやで顔合わせが終わり、僕は母親と駅に向かった。
「お疲れさん。」
母親に言った。もう日が暮れている。街灯に照らされた母親の顔は、本当に疲れきっているように見えた。だから、この後に続く母親の態度に、正直驚いた。
「なんなの、あの人は・・・」
怒っている。疲れていないのだろうか、沸々と湧き出た怒りの感情、それが疲れを癒やしたのだろうか。
「なんなの、って何?」
「国分寺が何もないなんて、本当に失礼するわ。」
それをまだ気にするのかとツッコミたくなったが、本気の目だ。茶化せる感じではない。
「あ、うん・・・そうだね。」
「そうだねじゃなくて、あんたももっと怒りなさいよ。国分寺がバカにされたんだよ、わかってる?」
「わかってるけどさ、国分寺と越谷なら国分寺の勝ちだろ?どんなに言われたってさ、この事実は覆されない訳だし、そんなに怒ってもしょうがないって。」
「そうだけど、一度も謝らないし、お土産はないし・・・あぁ、本当に嫌だ。嫌だ。あんたはいいの?」
どんどん早口になる母親。相当の事なのだろう。こんな母親を見たのは、父親と離婚する前、その時以来だ。
「いいの?って?」
「結婚していいんですか?って事。結婚したら、あの人たちもお義父さん、お義母さんって呼ぶようになるんだよ。お母さんは止めといた方がいいと思うなぁ。」
そうだった。母親には超能力めいたものがあった。例えば、朝、母親が呼び止め、いつもの通学電車に乗れなかった時、その通学電車が事故に遭ったりとか、くじ引きで次の次に並ぶといいよと言われてその通りにしたら、見事に特賞が当たったりとかしていた。その言葉通りに、結婚を止めていたなら、きっと違う未来が待っていただろう。
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