まだ、君を愛してる.doc
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その日もグレーの車で、駅に迎えに来ていた。確か、この日は僕が出張で、家にいなかった。だからこそ、なのだろう。
「愛花。」
柏は手を振った。僕に見られる事は確実にない。それがいつもよりも大胆に、愛花に自分の存在を誇示させていた。
「柏さん。」
愛花の声も弾んでいた。まだ、結婚して三ヶ月くらいだ。なのに、この喜びようはなんだ。僕の存在はなんだ。もし、彼女の心理状態を目に出来るのであれば、一度でいいから見てみたい。到底、僕には理解できない世界。不倫なる世界を覗かせて欲しい。
「結婚、おめでとうって言っていいのかな?」
柏は笑った。
「普通ならね。でも、柏さんは・・・違うんじゃない?」
愛花も笑った。
理解に苦しむ。
柏は既婚者。愛花も僕と結婚したのだから、既婚者だ。なのに、結婚前と同様に愛花に連絡を取ってくる柏、それに応える愛花、これの意味するものはなんだ?僕が何をしたと言うのだ。
「確かに・・・でも、こうして逢える。愛花に逢えれば・・・結婚していようが、いまいが、それは些細な話なんだ。僕らは大人の関係なんだから。」
大人の関係と言うのは、体だけの関係。それを示しているのは明白で、もし、その場に僕がいたなら、激しい怒りに、この柏と言う男を殴り殺していたはずだ。
「ふふふ・・・。柏さんって、エッチだね。」
「エッチ?それを言うなら、俺の呼び掛けに来てくれる愛花もだろう?それも愛花は新婚だよ。それを考えたら、むしろ俺よりも・・・ねぇ?」
何かを想像して、いやらしい笑みを浮かべる。本来なら女子が嫌うような笑みであっても、惚れている愛花には、それすら素敵に見える。恋は盲目とよく言うが、不倫と言う悲恋においては、盲目はさらに増していくのだ。
「何、それ。そう言うなら、帰っちゃおうかな。」
「おいおい、せっかく来たのに・・・。冗談はこれくらいにしておいて車に乗れよ。」
「うん。」
躊躇いなんてなく、それが当たり前のように、知らない誰かが見たら、薬指につけた指輪を見たら、この二人が夫婦だと思うだろう。


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