まだ、君を愛してる.doc
「じゃ、行きますね。シートベルト、して下さいね。」
「あ、うん。」
促されて、僕はシートベルトに手を掛けた。
流れていく景色。時折、山や海が見え、その中に街が存在する。都市と自然の融合とでも言おうか、とても新鮮に映った。
「どこから、来たんですか?」
「あ、東京です。」
「東京ですか、いいなぁ。私、行った事ないです。東京の人からしたら、田舎でしょ?」
「そんな事ないかな。むしろ、こっちの方がいいと思う。自然って、やっぱりいいよ。」
「ありがとうごさいます。」
また、グッときた。この言葉遣い、ありがとうの後ろに“ごさいます。”と、当たり前につけてきた。これはマズい。いい方にマズい。少し舞い上がり過ぎ、言葉遣いがおかしいが、このような態度はツボなのだ。
「どうかしましたか?」
「あ、いや、何でも。」
少し顔が赤らんでいる気がしたから、慌てて窓の外を眺めるフリをした。
「お仕事は何をしてるんですか?」
「あ、仕事ですか・・・うーん、どう説明すればいいやら・・・」
「どう言う事です?」
「ほら、営業の人なら営業みたいに、わかりやすく説明出来る仕事じゃなくて・・・。なので、謎の仕事とでも思ってもらえたら、うれしいかな?」
「なんですか、それ。スパイですか?」
「ははは・・・。まぁ、そんなところで。みりさんは?」
「みりでいいですよ。なんか、みりちゃんもみりさんも、イマイチしっくりこなくて。」
「じゃ、みり。仕事は何してるの?」
「うーん、私も謎の仕事で。」
「何それ。教えてよ。」
何の気なしに、繰り返した。
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