まだ、君を愛してる.doc
ホワイトボードに文字を書く。いつもならスラスラと、次々に言葉が出て来るのに、今日は出て来ない。ホワイトボードの前で真っ白になる僕。冗談にしたって面白くなさすぎる。
「課長、大丈夫ですか?」
「うーん、大丈夫じゃない。」
素直に言う。隠していても、どうにもならない。なら、言ってしまって、次の施策を考えた方がいい。部下も僕の性格をよく知ってるから、そう言ったところで、慌てるような事はない。
「ですよね?最近、おかしいですもん。」
「そうだった?」
「そうですよ、気づかなかったんですか?みんな言ってましたよ、課長がおかしいって。」
「みんなが・・・」
まさか、そこまでとは思っていなかった。軽く調子が悪いくらいだと思っていたが、端から見ると相当らしい。
「そうです。新島さんなんか、席が隣じゃないですか。めっちゃ、ため息ついてるって心配してましたよ。」
「ため息ねぇ。」
まるで、自覚なかった。あまり人に言う事でもないから、妻が出て行った事は誰にも言ってない。しかし、ここまでになると、口に出してないだけで、出て行ったと言っているのも同義に思えた。
「鈴木・・・お前には言っておくか。」
会議の場には、鈴木と久保の二人がいる。それ以外のメンツはこの場にはいない。せめて、この二人には話しておいた方が、これからの事を考えるといいと思われる。だから、重く言葉を吐き出した。
「いや、二人には言っとく。」
あらたまった僕に、二人は驚いていた。
「何をですか?」
久保はここまで他人事な感じで、僕と鈴木の会話を聞いているだけだったから、自分にも話しかけられ、相当に驚いていた。
久保に落ち着いてもらう時間も必要だ。側にあった椅子に腰掛け、大きく息を吸い込んだ。
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