まだ、君を愛してる.doc
「写メ、写メ撮らなきゃ。」
最近の携帯は下手なデジカメより、画素数にしても倍率にしても良かったりする。新島さんの持っている携帯もそうだ。わりと離れているのに、鮮明に愛花がグレーの車に乗り込むところを写した。
そして、すぐにタクシー乗り場に向かう。猶予はない。グレーの車を追い掛けないといけないのだ。幸いタクシーはこれでもかと言うくらいに、暇そうにしている。すぐに乗り、運転手に言った。
「あのグレーの車を追って下さい。」
「お嬢さん、訳ありだね。」
運転手は刑事ドラマの類が好きだと言う。だからだろう、このよく見るシチュエーションに興奮していた。
「あ、はい。まぁ、そんなところです。」
「よし、まかせとけ。つかず離れず、絶妙な間で追い掛けて見せるよ、おじさんは。」
新島さんにとって、実に好都合な運転手。テレビに影響されたのが、功を奏しているのか、確かにいい感じだ。前の車の様子を見ていると、全くこちらに気づいている様子はない。
「この道を行くって事は・・・おそらく、あれかぁ?全く昼間っから嫌だねぇ。」
「あれって何ですか?」
新島さんは運転席に手を掛け、身を乗り出し聞いた。
「そ、それはあれだよ。女の子に言うのは、おじさん、恥ずかしいなぁ。」
「いいから、教えて!」
「わ、わかったよ。ラブホだよ、ラブホ。この先にたくさんあるんだ。」
「そう言う事・・・」
いい方に向かっている。風は自分の思うがままのような錯覚、それを感じていた。
「おじさん、あの車がどこかに入ったら、その辺で停めて。あ、もちろん気づかれないようにね。」
「あいよ。」
威勢のいい返事をしたが、グレーの車はラブホを通り過ぎていってしまう。一つ、二つ、三つ・・・ダメだ。停まらない。
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