まだ、君を愛してる.doc
「おじさん~。」
「いやいや、ちょっと見て。どこも満室だよ。」
入り口にある表示板には、確かに“満”と表示されている。自分に彼氏はいない。無縁の表示板。それと昨今言われ続けている少子化。これを見ていると、そのニュースが本当だとは到底思えない。タクシーに乗っているだけなのに、そこら中から「うらやましいだろ!」と言われているような気になり、気分は沈む。
「はぁ・・・」
「ん?お嬢さん、どうした?」
「あ、いや、なんでもないです。」
うらやましくて、ため息をつきましたなんて言えない。でも、なんとなく心の中を覗かれたような不安から、耳を真っ赤にして俯いた。
グレーの車は進む。運転手の話では、この先にはあと一軒しかラブホはない。しかし相当な不人気なのだそうだ。
「どうしてですか?」
「理由はかい?ほら、見てごらんよ。」
いきなりコインパーキングが現れた。こんな人気のないところで、いったい誰がと思うのだが、多くの車が停まっている。
「なんで?」
「その隣の地味な建物もラブホなんだよ。前は工場かなんかだったと思うけど・・・それを改修した建物だから、敷地内に駐車場はない。で、隣の空き地に駐車場を作ったんだけど、コインパーキングって事は・・・金が掛かって、不人気って事さ。」
「なるほど。」
「おまけにコインパーキングに停めるって事は、一度車を降りて入らなきゃならない。人気のないところとは言え、やっぱりなぁ・・・?」
「ですよね。」
自分に置き換えても納得だ。ただ、それは新島さんには都合がいい。そうだろう。もし車でラブホに入られたら、写真を撮っても、それが誰かはわかりづらい。けど、この場合なら運転手の言う通り一度は歩かなければならないのだ。
そう考えていると、それが伝わったかのようにグレーの車はコインパーキングに入った。
「運転手さん、少し過ぎてそこで下ろしください。」
手前で停まると、相手に気がつく可能性がある。なら、そうではない方法をとらなければならない。全く関係ないフリをしてやり過ごし、その後に戻ってくる。どうせ車を停めるまでに時間が掛かる。なら、戻ってこればちょうどいいとも考えた。
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