まだ、君を愛してる.doc
「な、何かな?」
「ほ、ほら、男の人ってあれじゃないですか。離婚してもすぐに結婚出来るって。」
「うん、言うね。それがどうかした?」
「あのずっと思ってたんですよね・・・前にも言ったと思うけど・・・」
要領を得ない会話が続く。彼女は何を言いたいのだろう。ふと、ベランダの方に目を移すと、大きな月。理由はよくわからないけれど、時折見えるとても大きな月。それに目をやった。ややオレンジで、何かを訴えているかのようだった。
「ん?」
「あ、あのですね・・・わ、私・・・あの、その・・・」
「どうしたの?いつもの新島さんらしくないね。」
「あ、そうですよね・・・。ごめんなさい。でも、も、もう大丈夫ですから。す、好きです。課長の事が好きなんです。」
オレンジの意味、それはこれか。僕は思った。さっきよりも深く、オレンジは訴えかけてくる。
「好きって、新島さんが僕を?」
「そ、そうです。」
「なんで?この間離婚したばかりなんだよ。」
「だからです。だから、今しか告げるチャンスはないと思って。前にも、そう言いましたよね?」
僕と新島さんの会話は永遠に交わらない。
「そうじゃないんだ。例えば、新島さんは昨日フられたとして、その翌日告白されて、うんと言える?」
「あ・・・」
少しだけ彼女の道が、僕の道に向かって来たかも知れない。
「ごめん・・・。離婚ってさ、フられるよりももっと心がおかしくなる。わかっているんだ。もう、彼女は戻って来ないって。それはさっき見せた写真も、そして彼女自身も語っている。けど、それでも、まだダメなんだ。」
「あ、あの・・・」
まだ若い新島さんが、結婚生活、そして離婚の事を理解出来るはずがない。確かに知識としてはあるだろう。が、結婚生活と言うのは、現実に長い時間共にいるからこそ発生する何かがあって、それを共有しながら生きていく。小さなパンが一つあっても、それを半分にして分け合う。そんな感じ。そして離婚はそのパンを独り占めしたり、相手に持っている事すら言わなくなってしまうような感じ。
これは経験して初めて真に理解出来るのだ。だから、彼女が言葉も継げず、ただ口を開けているしかなくても、それは必然なのだ。
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