さくらの山に友だちはきえて

こなかったはる

クマはずいぶん、歳をとりました。

動くのが遅い虫や木の実を食べて、やっと冬をこすことができました。

久しぶりに林にいきたくなりました。

金色の陽のひかり。あったかくてやわらかい風。小川の水音。

河原には体を隠すものがありません。ニンゲンにみつかるかもしれないとわかっていても、とてもきもちがよくて。
クマは河原にからだをよこたえて目をとじました。

うとうとしていると、ニンゲンがはなしかけてきました。

ーーぼくはクマだから、君の言葉はわからないんだよ。
でも、なんだか懐かしいにおい。

クマは目をあけて、泣きたいほど幸せな気持ちになりました。

あの子があのころの姿のまま、自分に話しかけていたのです。

「約束を、守りにきてくれたんだね」

クマは言いましたが、女の子には通じていないようです。
それもそのはず、女の子は大きなクマを怖がっているのでした。

なのにどうして、こんなに近くに来たのでしょう。何をそんなに伝えようとしているのでしょう。
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