日常的幸福論～もうひとつの話～

「私にも…私にも世界で一番愛してるヤツがいたんだ。だけど、私が自らその手を離してしまった…今となっては後悔しかない」



男性はどこかそう寂しげに呟くとハハッと乾いた笑いを浮かべて席を立った。


「悪かったね、お嬢さん。つまらない話を聞かせてしまって」


「いえっ…」


「では、失礼するよ」


そう優しく微笑んで喫茶店を後にした男性にあたしは何も言えなかった。


だって愛しい人との手を自ら離すなんてこと、したことなかったから。




「どうした、沙依」


「へっ？なにが？」


「さっきから変だぞ。杏ちゃんと出かけた割には帰ってきてからも上の空だし」


やっぱり飛鳥にはお見通しか。


まぁ、一緒に遊んだ杏にも様子が変だってバレバレだったしな。