日常的幸福論～もうひとつの話～

「飛鳥に伝えてください。元気で、応援してるって」


お茶を一口飲むとお父さんは立ち上がって玄関へと向かうとわたしに深くお辞儀をした。


「沙依さん、飛鳥をよろしくお願いします」


「あのっ、頭を上げてくださいっ！飛鳥ともう一度話してください！」


あたし、飛鳥を呼んできますから！と立ち上がったのだけれど、お父さんは力なく首を横に振った。


「本当、飛鳥の言うように今更でした。もう手遅れなんですよ。それじゃあ」


バタンといつになく玄関の扉が重たい音を立てる。


『私にも…私にも世界で一番愛してるヤツがいたんだ。だけど、私が自らその手を離してしまった…今となっては後悔しかない』


本当に、これで良かったの？


せっかくお父さんは勇気を出して飛鳥に会いにきたのに、こんなの悲しすぎるよ。