日常的幸福論~もうひとつの話~
ここ、かーーー……
ルイから電話で呼び出された場所はとある住宅地の中にあるマンションの一室。
ルイが所属する事務所だ。
応接室で受付嬢のお姉さんから出されたホットコーヒーを口につけていると、応接室のドアがノックされた。
「沙依ちゃん、こんにちは!ごめんね。こんなとこまで呼び出して」
「こんにちは。いえ、びっくりしましたけど暇してたんで大丈夫です」
ルイに電話で『聞きたいことがある。沙依ちゃんじゃなきゃダメなんだ』と言われてあたしはここまでやって来た。
「それで、聞きたいことってなんですか?」
「うん、プロモーションビデオの件なんだけど」
「それなら昨日飛鳥が断りましたよね。飛鳥が断る以上あたしも協力できません」
「わかってるって。もう出演は諦めてる。ただ、やっぱり肝心の曲作りがなかなか作れなくてね。そこで、だ。沙依ちゃんと飛鳥の馴れ初めを聞きたいんだ」
馴れ初め?あたしと飛鳥の初めての出会いを?
「今回の新曲のテーマが『初恋』。飛鳥に聞いてもいいけど、男から聞くのろけ話ほど気持ち悪いものはないでしょ?だから沙依ちゃんから聞こうかなって思ったんだ」
「そんな、あたしと飛鳥なんて大した話じゃないですよ?」
「またまたぁ、芸能事務所の社長令嬢と言えども一般人の沙依ちゃんと大人気俳優の間宮飛鳥。それなりの話もあるでしょ。イメージ作りに協力してよ」
「聞いても普通の話ですよ?」
いいからいいから、というルイにあたしは少しずつ話始めた。