日常的幸福論~もうひとつの話~
あたしは彼の名前を知っている。
ううん、日本人みんな知ってはずのその名前。
人気急上昇中の人気俳優、間宮飛鳥。
ちょうどお父さんに連れられて彼の主演舞台を観に行ったとき、あまりのかっこよさと抜群の演技力に感動したのを覚えている。
「飛鳥をどうしてもうちの事務所に引き抜きたいの。そのためには沙依、貴方とお見合いしてちょうだい」
その舞台で彼に惹かれていたあたしは一生分の運を使い果たしたと思いながら、お見合いの話を了承した。
そのまま、慣れない着物に着替えて事務所所属のヘアメイクさんに髪をアップしてもらい、薄く化粧もしてもらった。
こんな急にお見合いなんて、と思ったけど相手はあの人気俳優。
今日の昼間しか時間が取れなかったと聞いて納得した。
お見合い会場のホテルに着くとお父さんがあたしとお母さんを待っていた。
「あなた、飛鳥は?」
「もう来てるよ。椿の間で待っている」
もうすぐ間宮飛鳥に会えると思うと緊張して足がすこしすくむ。